『グーグル・アマゾン化する社会』の賛同点と反論点。

『グーグル・アマゾン化する社会』(amazon:グーグル・アマゾン化する社会)を読みました。
これが、最近読んだ本の中では、かなりいい本でしたので、感想を。

多様化と一極集中と。

この本で提議されている問題点は、たぶん

  • 「世の中は、ますます多様化し、それが一極集中をもたらしている。」

の一点につきると思います。


これは、記録破りのメガヒット*1

の例を上げ、そして、そのほとんどが、Web以後の世界(90年代終わりに集中)でおこったことに注目した上で、多様化の中の一極集中に疑問を呈します。



同書では、この

なぜ、多様化の中で一極集中が起こるのか?

という問題意識について、特にGoogleAmazonを例にさらに掘り下げて解説し、その本質的な原因として、スケールフリーネットワークへと話を展開していきます。


すなわち、自己組織化の帰結として


「富める者はますます富み、貧乏人はますます貧乏に。」


の世界になってきており、その多様化が頼らざる終えないメディアとして、AmazonGoogleという富めるものが君臨している。


そして、これは、先日書いたNHKスペシャル「グーグル革命の衝撃」、要約 と感想 - 情報流の流れに身を任せ。の話にも繋がるのですが、ネットの民主主義まで話がいき、スモールワールドの狭い世界での集合知は、偏りやすい、といった点から警鐘を鳴らしています。


極端な意見が増幅しやすいWeb上での民主主義は、(うまくいけば素晴らしいが)、実態は難しい。


という点もあわせて、著者が強調している点です。

賛同点

一極集中と多様化が同時進行で起きるのは、相互作用の増したWebの世界では当然起きるであろう現象として、科学の世界からは以前から予測されていました。

CNETの森氏の記事、Web 2.0という時代の先にあるもの - CNET Japan

 しかし、実際にはインターネットという均質的なインフラが構築されても、依然として社会構造は均質的にはならず、むしろ情報分布の社会経済的な疎密という側面をより大きく強調することになった。


またこれまで視覚的にとらえられなかった社会の中での情報のマクロな分布は、むしろ均質性よりも大きく多様性を反映した広がり=ロングテールと、依然として一部の存在に情報や利用、需要が集中したり依存したりする様子を同時に描き出した。


 このことは、抽象的に世界を把握することに長けた経済学や複雑系科学の研究者は想定していたものの、GoogleAmazonなどのように、ロングテール現象を直観的に把握できるケースが生まれるまでは、あまり多くの人には知られていなかったことだ。


にあるとおり、世の中はフラット化するのではなく、フラット化したインフラをベースに自己組織化することで、ロングテールとヘッドが共存する「べき分布」の世界になるだろうというわけです。

なお、ロングテールの作者は、ロングテールは「べき分布」のテールの部分に注目した言葉であることを、「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く - CNET Japanで説明しています。


このような、Webを介して多様化と一極集中が同時進行で起こる現象を、まず、取材による事例であげ、それを、理論へとつなげている書籍はこれまであまりなかったので、そこがとても良かったです。


ロングテール」は確かに分かりやすく、そのことが、この言葉をバズワードとしていたのですが、実際には、

  • 長いテール
  • 巨大なヘッド

の両方の点を有していることにその本質があり、その点にスポットを当てたという点が、この本の素晴らしい点でもあります。



まとめると、

という言葉が混在し、特に「Web進化論」以後、いたずらに用語が混乱を増幅させている印象もありますが、僕なりにまとめると、これは、

  • Webの出現・拡大によって、世の中の情報に誰もがアクセスでき、発信できるように情報環境が「フラット化」した。
  • この環境の変化が、「一極集中」と「長いテール」が共存する分布(べき分布)をあちこちにもたらした。

ということになるのだと思います。


また、自己組織化を加速させる方法(上手にヘッドに近づける方法)として、ティム・オライリーWeb2.0について語っている下記の言葉も、重要です。*2

「多くのユーザーがいればいるほど使いやすくなるシステムをどうデザインするのか・この方がずっと深いコンセプトです。」


この点は、僕が、今更ながらの Web2.0。 簡単なまとめ。 - 情報流の流れに身を任せ。

にて指摘している点と重なっている部分が多く、読んでいて少し嬉しかった点です。


反論点

さて、賛同できない点もいくつかあります。


それは、

  • 多様化で儲けることができるのは、ヘッドの一部の企業だけだ。

という結論を出している点です。


ヘッドの一部に富が集中するのは、それはそうなのですが、テールはWeb前の世界に比べれば利益は遥かに出ているのです。


これを説明するためには、

という点を明らかにする必要があります。


この世界観は、相互作用がある時の分布の逆。
すなわち、独立に個々が動いたときの分布になります。


独立系の総和として得られる分布の特徴は、中心極限定理が示しています。
所謂受験勉強で「偏差値」として、散々お世話になって正規分布が代表です。


正規分布べき分布と比べ、ヘッドの集中が遥かに弱いです。
また、テールは非常に早く切れてしまいます。いわば、ショートテールです。


このことをロングテールではおなじみの「本」で例えると、次のようになります。

ロングテール以前の世界(正規分布:ショートテールの世界)
    • Top10が上位を競い合い、Top1000以下は、全く売れない世界。
ロングテールの世界(べき分布:強力なヘッドとロングテールの世界)
    • Top1が圧倒的に強く、2位、3位で急速に売り上げが減少する。しかし、Top1000以下でも、ある程度の売り上げはたち続け、Top10000移行でも売り上げがある世界

※1,000位や10,000位といった数字は感じを分かりやすくするためのダミーです。



僕は、このような世界はさほど悪いとは思っていません。

理由は、自然界の進化するときの多様性が、ロングテールになっているのではないか?という知見が出始めていることに由来します。

つまり、進化の形態としては、圧倒的に現在最良と思われる形態が大部分を占め、一方で、環境に激変に対して、大きく違う形態が少ないながらも多様に存在するという形を進化の法則は取っているのではないか?という考え方です。
*3


僕は、物理畑出身のため、自然界に似たものを正解とみなす傾向がありますので、もしかしたら間違いかもしれないのですが、まぁ、それは20年後ぐらいに正解はわかるってことで、今回は曖昧に終わらしたいと思います。

*1:p.28

*2:p.86より

*3:進化とべき法則の関連については、『カウフマン、生命と宇宙を語る―複雑系からみた進化の仕組み』amazon:カウフマン、生命と宇宙を語る―複雑系からみた進化の仕組みまで。