経済成長ではなく、多様化を目指すべき。

経済学に対する疑問

  • 日本の潜在成長率は、○%だから。
  • 日本の適正な失業率は・・・。
  • 物価上昇率を、○%にするために、日銀は公定歩合を・・・。


という提言は何か役に立っているのだろうか。


操作できるパラメータと今見える指数に注目が行くのは、やむをえないのだろうが、今日の株式相場のニュースで、予想を超えて上がると「市場の予想を上回ったため。」、変動しないと、「市場は織り込み済み」というのとあまり変わらない気がする。



私がそう思う原因は、たぶん下記のような理由だろう。

  1. 経済について、定量的に現状と過去の分析はするが、そこに本質的な法則を見出していないため、定量的な予測まで至っていない。
  2. したがって、今回の議論や提言が経済の仕組みを言い当てているか、検証できない。
  3. 検証が不可能なため、PDCAが回らず、誰もが言いっぱなしになり、その中で当たり外れを言っている。
  4. その結果として、結局「全てが後付なのでは?」という気が否めない。


つまり、バブル期に、現在起こっているのがバブルだと指摘し、それを”定量的に”示し、安全なランディング方法を提言した経済学者が見当たらない。
ソニーショックのような話も経済学者から事前の予測が出ていない。


「危ない」ことを指摘していた経済学者はいると思うが、なんというか競馬新聞の予想のようなもので(これも定量っぽいことは、やっている。過去5戦の勝率、体重が減っていた、長距離では元々強かった。等など)、各自が各自の理論で論理を積み上げていくので、「それだけ様々な意見があれば、誰か当たるのは当たり前だろう」のレベルを脱していない。
つまり、論理に完全な客観性と、様々な要因を超えた本質論を追求姿勢が足りない気がするのである。


経済成長の本質は、多様性


そういう本質論が強い学問分野からの話だと、スチュアート・カウフマンが書いた下記の本が本質を言い当てていると思う。

amazon:カウフマン、生命と宇宙を語る


スチュアート・カウフマンという人は、複雑系研究の中心地であるサンタフェ研究所のエースのひとりであり、主に生物学、進化論の研究を自己組織化という観点から研究している人で、「ジュラシックパーク」に出てきた、カオス理論学者のモデルになった人でもあります。


ただ、僕のイメージは、少し異なります。


カウフマンは、愛娘を交通事故で亡くしてから、「生命とは何か?」、ということにこれまで以上に没頭し、


「我々生命は偶然の産物なのだろうか? いや、なるべくして現在の形になったのではないか?確率に支配された無秩序は、自己組織(触媒)化というスパイスにより、自然と秩序を生み出すような仕組みになっていたのではないか?」


という結論を導いています。


このエピソードから、僕の中でのイメージは完全に「鉄腕アトム」のトビオを失った天馬博士のイメージになってしまってます。


話がそれました・・・。


さて。この本は、かなり生命の進化、宇宙論、熱統計力学、経済学、哲学と多岐に及んでいます。この本の「9章 常に革新する経済圏」において、カウフマンは、

  • なぜ、経済は成長するのか?
  • 我々の祖先が、石器を発明した時代と比べて、現在の様々な道具、商品、サービスにみられる多様性はなぜ生まれたのか?


といった問題提起をしています。


そして、経済成長の理由は、多様性の増大に本質的な理由があり、それは進化のシステムと本質的に変わらないという結論に至ります。


具体例としてあげているのが自動車産業です。


自動車産業という新しい種が表れたことにより、

  • エンジン、鉄鋼、バッテリー、など部品産業
  • 道路整備事業
  • ガソリンスタンドなどのインフラ

という新しい生態系が生まれ、その後、個人の行動範囲を広げたことにより、

といった部分まで自動車というインフラがあることが前提とした新しい産業が興ってきます。


一方、この結果、

  • 馬車
  • 馬の蹄鉄の加工

など、馬車を基盤とした産業は衰退することになります。これは自動車が基点となった種の登場により、自動車産業を中心とした生態系が構築された結果、既存の馬を中心とした生態系が衰退を余儀なくされたことを意味しています。



ただ、馬車のあった時代の生態系に比べて、自動車が作り出した生態系の多様性の方が遥かに高いことは、間違いないでしょう。
この多様性の拡大こそが、経済が成長しつづけた本質だとしています。



そうなると、最初の議論も変わってきます。


経済成長を生み出すには、いかにトータルでの多様性を上げる(例え、衰退する産業があっても)方向にもっていくかが、本質ならば、

  • 商圏の拡大に繋がらない道路整備(A市からB市に買出し先が変わる)
  • 溶接を教える再就職支援
  • メディア図書館の建設


などは、新しい生態系の登場は全く引き起こさないことからやめる。


変わって

  • 車が走る道路整備から、情報が走るネットワークの整備(物流のみから、情報流通の生態系へ)
  • ハイブリッドカー、電気自動車などの支援(石油エネルギーから電気エネルギーの生態系へ。やがて自動車内でネットワーク化された電気製品の需要へ。)
  • 都市間の鉄道整備から、市街地を柔軟につなぐLTE(大規模店に中心から、町全体で多様性を目指す生態系へ)


といった方向性が考えられるのではないかと思います。