セカンドライフの凄さは、3Dのバーチャル空間であることではない

話題のセカンドライフ

セカンドライフが話題である。


「Second Life」内にBOOK OFFの店舗

のような企業進出の例や、

話題の仮想世界「Second Life」に突入取材,そこには「小京都」もあった | 日経 xTECH(クロステック)


のようなバーチャル空間での体験レポートを読むと、


「なんか世の中間違った方向に進んでいないか・・・?」


という少し薄気味悪い気分にもなってくる。

セカンドライフの本質

しかし、セカンドライフの最大の特徴はそこではない。
そのことを最も的確に言い表しているのが、CNETのこの記事だろう。

最大の特徴は「創造性」と「所有権」


 Secone Lifeにおける最大の特徴は住民(Second Lifeのユーザーは住民と呼ばれる)に与えられる「創造性」と「所有権」にあるだろう。Second Lifeには3Dオブジェクトを制作できるツールが用意されていて、住民はSecond Lifeで建物でも洋服でもゲームでも自分の欲しいものを作り出すことができる。さらに自分の創造したものの所有権は住民自身に与えられるため、さまざまな製品を作成し、販売することが可能となっている。この世界ではリンデンドルと呼ばれる通貨が用意され、米ドルへの換金も可能だ(ちなみに、現時点では1ドルは約270リンデンドルとなっている)。こうしてSecond Lifeでは経済活動も営まれているコミュニティーが運営されている。そのため、Second Lifeで起業する人もたくさんいる。

[年末特集:2006]始めてみよう!仮想世界「Second Life」--それって何?編 - CNET Japan


つまり、セカンドライフの本質は次の2点にまとめられるのである。

  • サイトのCreativeの部分を「簡単にクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。
  • クリエイトされたものを流通させるためにコミュニティ内に通貨システム(RMT - Real Money Trade - )を積極的に導入した。


なお、セカンドライフの通貨−リンデンドル−は、ドルと交換が可能なため、ひと儲けしようという参加者や企業が流入しているが、これはあくまでも結果論であろう。
基本的には2つめの特徴であるデジタルな財の自己増殖を促すための「仕掛け」が第一義だったと思う。



3Dのバーチャル空間はこれらを実現しやすくするためのインフラなのである。


Webサービスの自然な進化の流れの中で生まれたのが、セカンドライフ


では、この仕掛けは「新しい」のだろうか?


答えは、「No」だろう。


それは、上述の1つ目の特徴である

  • サイトのCreativeの部分を「簡単にクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。

の「クリエイト」されるものを、Webページに限定してみればわかる。


読み替えてみると、

  • ネット上のWebページの作成を「簡単にWebページをクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。


となり、これは、「ブログ」や「wiki」などに代表されるCMS(Content Management System)のことに他ならない。



では、2つ目の特徴については、どうだろう?

たとえば、


「他者ブログを自分のブログに引用するのに通貨を必要とする」


となっていたとしよう。


すると、それは、


「他者の作ったTシャツを自分のアバターに着せるのに対価を払う」


のと、財の性質・組み合わせは違っても交換自体の本質に違いはないのであり、もし、この仕掛けがあったならば、ブログは「テキスト版セカンドライフ」とも言えるのである。*1

まとめ


まとめると、3Dの世界観は、初期ユーザーを「新しさ」で引き付けるための集客するための仕掛けであり、かつクリエイトしたものの置き場所にすぎない。
そして、その後、自律的に継続して(substainable)成長するための本質的な仕掛けとして、この「創造性」と「所有権」(そして付け加えるならば、それを促しやすくするための交換のシステム。)があるのである。*2


この違いを混同して


セカンドライフの3Dバーチャル空間は確かに凄い。でも、こういった全てバーチャルの気持ち悪さは、日本では流行らないだろう。」

などと認識をしていると、セカンドライフに対する理解をミスリードすることになり、気がつけばセカンドライフの独走になるかもしれないと少し思うのである。*3

*1:これを贈与経済的な方向から実現しているのが、はてなの「投げ銭」である。

*2:ちなみに、クリエイトの部分を独占し、通貨による交換のみを開放したのが、CyWorld。クリエイトを部分的に開放したが、交換を促す通貨がないのがmySpaceである。なお、SNSのSocialな仕掛け部分については、切り口が少し変わるため、今回は触れない。

*3:正直なところ、現状の仕組みのままでは日本では流行らないだろうと思う。ただ、Webサービスの良さは、簡単にバージョンアップ出来る事にある。ちょっとした簡単な工夫ひとつで爆発的にヒットできるポテンシャルをセカンドライフは秘めているのである。