スプリュームは、セカンドライフを本当に凌ぐか?

スプリュームとは


先日(2007/7/5)に、下記のEビジネス研究会のセミナーに出てきました。

セカンドライフによって急速に仮想世界、アバター、Webの次世代の形などが注目されています。
日本でもいくつかの会社がいわゆる「メタバース」事業に名乗りをあげました。

弊社は、日本のコンピュータグラフィックスの黎明期からCGに携わってきたメンバーが2000年初頭より始めた仮想世界を、Webの新化形としてのデファクト・スタンダードにするべく、事業展開しています。

仮想空間がサーバーからサーバーへとシームレスに歩いていけるようにリンクする特許技術を中心に実現されたスプリュームで、インターネットのこれからを体感していただければと思います。

『セカンドライフを凌ぐ!?日本版の仮想空間「スプリューム」の実力とその全貌』 第86回Eビジネス研究会セミナー


実際には、セミナーを聞くまでは『セカンドライフを凌ぐ!?』という話はほとんど信じてなく、「セカンドライフにつられて、物真似サービスがまた現れたのでは?」というのが当初の予想でした。


ただ、話を聞いているうちに次第に、「これはひょっとして本当に凄いかも!?」、と思い始めたので僕が理解できた範囲で簡単にまとめておきたいと思います。



凄いかもと思った理由としては、大まかにまとめると次の3点になります。

  • 閉じていない世界
  • WWWとの親和性の高さ


以下で、ひとつずつ説明していきたいと思います。


閉じていない世界

まず、最初の「閉じていない世界」についてです。


所謂、囲い込み型の新しいWebサービスのひとつだったら、大して興奮はしないです。
その手のサービスは、確かに、うまくいけば「Amazon」「mySpace」「Cyworld」「mixi」のようなモンスターサイトになれるかもしれないですが、競争環境の変化によって栄枯盛衰の激しい世界です。
そのため、「過酷な競争の中で生き残れるかどうかが」、が全てを決します。そして、強いものがますます強くなるWebの世界では、せめて3位までに入れることが求められます。


そして、その可能性は極めて低く、かつ、生き残ったとしても、既存のサービスにまた新しい形態が加わったという程度のものとも言えるでしょう。


この「スプリューム」に可能性を感じるのは、もう少しプラットフォーム型でのビジネスを目指しているところです。
要するにWebサービスを作って囲い込むのではなく、仕様・規格を提供して、自由にやってもらおうとしているところでして、これは、WWWを作ろうとしたときの発想に似ています。
ちなみに、セカンドライフも現在は「土地売り」で儲けているイメージがありますが、今後の方向性としては仕様を公開し、誰でもサーバを立てることでセカンドライフ上に土地が持てるようなモデルを指向しています。
このため、目指しているのは、同様に「閉じていない世界」です。ただ、その中で仮想通貨である”リンデンドル”を手放さないビジネスモデルを目指しています。セカンドライフをただのウェブサービスと思っていると足元をすくわれる可能性があると前回書いたのはこの点が頭にあったことが影響しています。




具体的には、サーバーにhtmlを公開するように、「cr」というファイルを置くことで、誰でも、どこのサーバでも3Dの世界をつくることが出来ます。


既存のビジネス形態では、


「3Dのページを簡単につくらせてやるんだから、お金を払え」


といった形がすぐに思いつきがちですが、この手のサービスではビックビジネスは生まれません。(と、そろそろ断言できる時代になってきました。)
Web2.0の世界では、どうやってユーザーに参加してもらい、コンテンツをクリエイトしてもらうかで、その世界の面白さが変わってきます。
その点では、誰でも参加できる開放型の世界(レンタルサーバーでも3D世界の構築が可能)は、参加の垣根を大きく下げており、有望といえます。

WWWとの親和性の高さ

次に「WWWとの親和性の高さ」ですが、ここが、セカンドライフとの違いを一番感じた点です。
図を参照してもらいたいのですが、セカンドライフは、Webの仕様を比較的イチから作ろうとしているのに近いです。
ネットで通信は確保するものの、多くは、リンデン・ラボ社が決めた仕様に沿って作る必要があります。セカンドライフの中では、htmlやハイパーリンクといったものは、別個の仕様となります。




その点、スプリュームは、htmlを3D仕様のVRMLを中心としたファイル形式で置き換え、ハイパーリンクの変わりに、空間リンクという3D仕様のハイパーリンクを作っています。
そして、2Dのhtmlと、3Dのスプリュームの空間はクリックで移動可能となっています。
3D空間同士は、歩いて移動することが、空間リンクをクリックしたことになり、明示的にクリックすれば、2Dのhtmlといける。



これは、2D、3Dにとらわれず、『コンテンツ』が存在し、それが、『リンク』で繋がれているという世界であり、既存の広大な2D(html)の世界とは断絶感の強い3D空間をもつセカンドライフとは明らかに異質なものです。


僕にとっては、Webのコンテンツにこれまで、フラッシュや動画が加わってきたのと同様に、2DのWebの上に新しく3Dのレイヤーがリンクつきで載っかったスプリュームの形態の方がWebのより漸近的で自然な発展のような気がします。

新しいユーザーインターフェイスの可能性


最後に、「新しいユーザーインターフェイスの可能性」ですが、これは、現在htmlでつくっているユーザーインターフェイスが、3Dにものをおくほうが、楽になるかもしれないという予想です。


もちろん違うかもしれないのですが、現在のWebサービス

  • ページをいくつのペインにわけるか?
  • ページ遷移をどう構成するか?
  • ページの下にあるメニューにどうやって気づいてもらうか?


といったUIは、もしかしたら、3Dの部屋をつくって、看板や、新しい部屋や、ダンボールを転がしておくほうが、もしかしたら、簡単に作れ、簡単に理解しやすいかもしれない。

という可能性を秘めています。



ただ、これは自分で書いていても眉唾な気がします。
新聞などは、2Dだからこそ一覧性が高く良いインターフェイスのような気もするので、もう少し問題は複雑かも知れません。
*1



以上、3点(最後は怪しいですが。。。)から、しばらくこのサービスには注目していきたいと思います。




あと、最後に、次の2点

  • どこで儲けるの?
  • 交換可能な仮想通貨(RMT)はやらないの?


について補足したいと思います。

どこで儲けるの?

まず「どこで儲けるのか?」といったところでは、3D空間は全面的に開放しているので、アバターに関するビジネスになるようです。
アバターに関するプラス・アルファの機能を安価で提供し、プラスアルファの機能がチープになってきたところで無料になるといった、現在のミクシィのプレミアム会員のような形が想定されます。

交換可能な仮想通貨(RMT)はやらないの?


また、仮想通貨ですが、これは、既存のAmazon,楽天などのeコマースと同様に、クレジットやWebマネーを使うようです。
ただ、個人的には、標準貨幣も創って欲しいと思います。


これは、僕が、ここ3〜4年、Webコミュニティを追っかけてきた過程で、貨幣というものについて、


「『国家が貨幣に価値を与えている』のではなく、『コミュニティが貨幣に価値を与えている』 国家は、現在、相対的に最も強力なコミュニティの一形態に過ぎない。そのため、コミュニティがあれば貨幣は創り得る。」


という考えをもっていることもあり、本当に当たるかどうか*2を見てみたいという思いがあります。




リンデンドルが今これを試し始めていますが、日本発でもなんか欲しいものです。*3

*1:例えば、スーパーならどこになにがあるかひと目で分かったほうが嬉しいが、ドンキホーテなら彷徨いながら見つけるほうが楽しい、などといったように2DのUIと3DのUIとでは、具体的に使い分けがいるかもしれません。

*2:コミュニティが貨幣を生むのなら、貨幣もまた、圧倒的な強さをもつ国家貨幣と、それ以外のロングテール型の地域/Webコミュニティ貨幣が共存する世界になるという予想です。

*3:はてなポイントに期待していたのですが、法律的なトライがしづらい日本という環境が悪いのか、なかなか実現は難しいようです。