2008年に起こりそうな事

2007後半に飛び込んできたニュース

2007年を振り返ったときに、今年の大きな変化を予想させるニュースがひとつ飛び込んできました。

2008年は、もしかしたら、デジタル財に関する著作権の問題に一定の整理がつく年になるかもしれません。

そのニュースがレディオヘッドが行った下記のニュースです。

In Rainbows」が画期的だったのは、購入者がダウンロード時に自分で好きな価格を付けられるところにある。しかも、ユーザーが望めばお金を払わず「無料」でアルバムをダウンロードすることもできるのだ。このアルバムこそ、本当の意味の「オープン価格」であると言えるだろう。

テクノロジー : 日経電子版

純粋にレディオヘッドは、昔から好きなバンドだったのですが(「The Bends」は、今でも最高のアルバムのひとつだと思う。)、それとは別に主に著作権の問題から、次に起こる流れを予想(願望?)したいと思います。


2005年以降、CGMと呼ばれる流れにのって、大きな流れが続いています。この中で、次の2つの特徴に注目したいと思います。

  • 決めるのはユーザー
  • 動く

まず、最初の

決めるのはユーザー

についてまとめます。

これは、多くのことがユーザーに移りつつあることを表しています。
「コンシューマー(消費者)から作成者でもあるプロシューマーへ。」といった流れの一端でもあるのですが、これはもっと広く捉える必要があるでしょう。


現在、ユーザーが行っているのは、もっと多方面に及んでいます。youTubeニコニコ動画を例に、無理やり段階を整理すると以下のようになります。

  • コンテンツの作成 (create)
  • それを評価する(evaluate)
  • タグをつけ分類し(classify)
  • 拡げる (spread)

これが、一週目です。

この段階を得てブレークすると、次に起こるのは、

  • 最適な広告をつける(advertize)
  • 亜種が出回る(variate)
  • 関連コンテンツが増加する(extend)
  • まとめサイトが出来る(consolidate/edit)

までの、所謂、コンテンツが関連コンテンツと変種からなる生態系を構築するまでです。

このように「あらゆる仕事はユーザーに委ねられうる」ということが、現在、起きている流れです。

良いコンテンツかどうかを評価するのもユーザーならば、それがどの広告と結びつくと(ネタとして、情報として)より楽しめるものになるのかを考えるのも、ユーザーです。


そして、レディオヘッドが行ったのは、この流れに加えて、オークションなどC2Cの世界では当然だった「価格をつける」ことを、ユーザーに委ねたというわけです。


次に、もうひとつの

動く

について説明します。


これは、2chのころからそうだったとも言えますが、Twitterや、ニコニコ動画ソーシャルブックマークなどに顕著にみられる時間軸に対する動きの速さです。


コンテンツはより細切れになる代わりに、それらは時間軸や友人関係などのネットワークを利用して、より適したところに適した時間だけ表示されるようになっています。


これは、これまでの「能動的に探すWeb」から「受動的に眺め、時に参加するWeb」への変換を表しているような気がします。

もともと、動きがあるのは、活発なコミュニティの特徴でしたが、2ch

  1. 更新されたスレッドを上にする。
  2. ひとつのスレッドに上限を設ける

のふたつで実現していた受動的エンターテインメントの性質が、集合知を活用したシンプルな仕組みによって、より高度に進化してきていると言えます。

予想

以上のふたつの融合として、予想してる流れは、

  • ユーザーがデジタル財(CGMを含む)コンテンツの価格を変動相場性で決める。(決めるようなシステムが出る)
  • その際、B2Cのコンテンツでは貨幣、もしくは、貨幣に紐付けられたポイントが使われ、一方、C2Cでは、より貨幣らしさの薄いユーザーポイント(はてなスターにもう少し制限を加えたような。)が使われる。

です。


想定してるプレーヤーとしては、B2Cでは少し尖っていて、かつ、コンテンツを所有する

あたり。

C2Cでは、すでにデジタル財をユーザー間で交換する場所を場所をもってる

あたり。


あと、こういう流れの際に出てくる情報仲介者(システムのみを誰でも使える形で無料で提供し、なんらかの形で収益を上げる。)として第三者的役割がもて(自らが利害関係者ではない。)、かつ、革新性のあるという意味では、

あたりを今のところは想定しています。


なお、具体的な価格決定の仕組みのイメージは、以前書いた

ロングテールのコンテンツビジネスについて。 - 情報流の流れに身を任せ。

のシナリオです。



以上、今年一発目ということで、初夢のような話題を出してみました。


以上書いたことは、まだまだ先だろうと思っていた予想だったのですが、レディオヘッドのニュースを受けて、もう少し早く起きるかもしれないと思い、今年の予想にしてみました。


当たるも八卦ですが、世の中が多様化するのであれば、いつかは起きる流れだと思っているので、あとは、「いつ」ということだと思うのですが、どうでしょうかね?

スプリュームは、セカンドライフを本当に凌ぐか?

スプリュームとは


先日(2007/7/5)に、下記のEビジネス研究会のセミナーに出てきました。

セカンドライフによって急速に仮想世界、アバター、Webの次世代の形などが注目されています。
日本でもいくつかの会社がいわゆる「メタバース」事業に名乗りをあげました。

弊社は、日本のコンピュータグラフィックスの黎明期からCGに携わってきたメンバーが2000年初頭より始めた仮想世界を、Webの新化形としてのデファクト・スタンダードにするべく、事業展開しています。

仮想空間がサーバーからサーバーへとシームレスに歩いていけるようにリンクする特許技術を中心に実現されたスプリュームで、インターネットのこれからを体感していただければと思います。

『セカンドライフを凌ぐ!?日本版の仮想空間「スプリューム」の実力とその全貌』 第86回Eビジネス研究会セミナー


実際には、セミナーを聞くまでは『セカンドライフを凌ぐ!?』という話はほとんど信じてなく、「セカンドライフにつられて、物真似サービスがまた現れたのでは?」というのが当初の予想でした。


ただ、話を聞いているうちに次第に、「これはひょっとして本当に凄いかも!?」、と思い始めたので僕が理解できた範囲で簡単にまとめておきたいと思います。



凄いかもと思った理由としては、大まかにまとめると次の3点になります。

  • 閉じていない世界
  • WWWとの親和性の高さ


以下で、ひとつずつ説明していきたいと思います。


閉じていない世界

まず、最初の「閉じていない世界」についてです。


所謂、囲い込み型の新しいWebサービスのひとつだったら、大して興奮はしないです。
その手のサービスは、確かに、うまくいけば「Amazon」「mySpace」「Cyworld」「mixi」のようなモンスターサイトになれるかもしれないですが、競争環境の変化によって栄枯盛衰の激しい世界です。
そのため、「過酷な競争の中で生き残れるかどうかが」、が全てを決します。そして、強いものがますます強くなるWebの世界では、せめて3位までに入れることが求められます。


そして、その可能性は極めて低く、かつ、生き残ったとしても、既存のサービスにまた新しい形態が加わったという程度のものとも言えるでしょう。


この「スプリューム」に可能性を感じるのは、もう少しプラットフォーム型でのビジネスを目指しているところです。
要するにWebサービスを作って囲い込むのではなく、仕様・規格を提供して、自由にやってもらおうとしているところでして、これは、WWWを作ろうとしたときの発想に似ています。
ちなみに、セカンドライフも現在は「土地売り」で儲けているイメージがありますが、今後の方向性としては仕様を公開し、誰でもサーバを立てることでセカンドライフ上に土地が持てるようなモデルを指向しています。
このため、目指しているのは、同様に「閉じていない世界」です。ただ、その中で仮想通貨である”リンデンドル”を手放さないビジネスモデルを目指しています。セカンドライフをただのウェブサービスと思っていると足元をすくわれる可能性があると前回書いたのはこの点が頭にあったことが影響しています。




具体的には、サーバーにhtmlを公開するように、「cr」というファイルを置くことで、誰でも、どこのサーバでも3Dの世界をつくることが出来ます。


既存のビジネス形態では、


「3Dのページを簡単につくらせてやるんだから、お金を払え」


といった形がすぐに思いつきがちですが、この手のサービスではビックビジネスは生まれません。(と、そろそろ断言できる時代になってきました。)
Web2.0の世界では、どうやってユーザーに参加してもらい、コンテンツをクリエイトしてもらうかで、その世界の面白さが変わってきます。
その点では、誰でも参加できる開放型の世界(レンタルサーバーでも3D世界の構築が可能)は、参加の垣根を大きく下げており、有望といえます。

WWWとの親和性の高さ

次に「WWWとの親和性の高さ」ですが、ここが、セカンドライフとの違いを一番感じた点です。
図を参照してもらいたいのですが、セカンドライフは、Webの仕様を比較的イチから作ろうとしているのに近いです。
ネットで通信は確保するものの、多くは、リンデン・ラボ社が決めた仕様に沿って作る必要があります。セカンドライフの中では、htmlやハイパーリンクといったものは、別個の仕様となります。




その点、スプリュームは、htmlを3D仕様のVRMLを中心としたファイル形式で置き換え、ハイパーリンクの変わりに、空間リンクという3D仕様のハイパーリンクを作っています。
そして、2Dのhtmlと、3Dのスプリュームの空間はクリックで移動可能となっています。
3D空間同士は、歩いて移動することが、空間リンクをクリックしたことになり、明示的にクリックすれば、2Dのhtmlといける。



これは、2D、3Dにとらわれず、『コンテンツ』が存在し、それが、『リンク』で繋がれているという世界であり、既存の広大な2D(html)の世界とは断絶感の強い3D空間をもつセカンドライフとは明らかに異質なものです。


僕にとっては、Webのコンテンツにこれまで、フラッシュや動画が加わってきたのと同様に、2DのWebの上に新しく3Dのレイヤーがリンクつきで載っかったスプリュームの形態の方がWebのより漸近的で自然な発展のような気がします。

新しいユーザーインターフェイスの可能性


最後に、「新しいユーザーインターフェイスの可能性」ですが、これは、現在htmlでつくっているユーザーインターフェイスが、3Dにものをおくほうが、楽になるかもしれないという予想です。


もちろん違うかもしれないのですが、現在のWebサービス

  • ページをいくつのペインにわけるか?
  • ページ遷移をどう構成するか?
  • ページの下にあるメニューにどうやって気づいてもらうか?


といったUIは、もしかしたら、3Dの部屋をつくって、看板や、新しい部屋や、ダンボールを転がしておくほうが、もしかしたら、簡単に作れ、簡単に理解しやすいかもしれない。

という可能性を秘めています。



ただ、これは自分で書いていても眉唾な気がします。
新聞などは、2Dだからこそ一覧性が高く良いインターフェイスのような気もするので、もう少し問題は複雑かも知れません。
*1



以上、3点(最後は怪しいですが。。。)から、しばらくこのサービスには注目していきたいと思います。




あと、最後に、次の2点

  • どこで儲けるの?
  • 交換可能な仮想通貨(RMT)はやらないの?


について補足したいと思います。

どこで儲けるの?

まず「どこで儲けるのか?」といったところでは、3D空間は全面的に開放しているので、アバターに関するビジネスになるようです。
アバターに関するプラス・アルファの機能を安価で提供し、プラスアルファの機能がチープになってきたところで無料になるといった、現在のミクシィのプレミアム会員のような形が想定されます。

交換可能な仮想通貨(RMT)はやらないの?


また、仮想通貨ですが、これは、既存のAmazon,楽天などのeコマースと同様に、クレジットやWebマネーを使うようです。
ただ、個人的には、標準貨幣も創って欲しいと思います。


これは、僕が、ここ3〜4年、Webコミュニティを追っかけてきた過程で、貨幣というものについて、


「『国家が貨幣に価値を与えている』のではなく、『コミュニティが貨幣に価値を与えている』 国家は、現在、相対的に最も強力なコミュニティの一形態に過ぎない。そのため、コミュニティがあれば貨幣は創り得る。」


という考えをもっていることもあり、本当に当たるかどうか*2を見てみたいという思いがあります。




リンデンドルが今これを試し始めていますが、日本発でもなんか欲しいものです。*3

*1:例えば、スーパーならどこになにがあるかひと目で分かったほうが嬉しいが、ドンキホーテなら彷徨いながら見つけるほうが楽しい、などといったように2DのUIと3DのUIとでは、具体的に使い分けがいるかもしれません。

*2:コミュニティが貨幣を生むのなら、貨幣もまた、圧倒的な強さをもつ国家貨幣と、それ以外のロングテール型の地域/Webコミュニティ貨幣が共存する世界になるという予想です。

*3:はてなポイントに期待していたのですが、法律的なトライがしづらい日本という環境が悪いのか、なかなか実現は難しいようです。

セカンドライフの凄さは、3Dのバーチャル空間であることではない

話題のセカンドライフ

セカンドライフが話題である。


「Second Life」内にBOOK OFFの店舗

のような企業進出の例や、

話題の仮想世界「Second Life」に突入取材,そこには「小京都」もあった | 日経 xTECH(クロステック)


のようなバーチャル空間での体験レポートを読むと、


「なんか世の中間違った方向に進んでいないか・・・?」


という少し薄気味悪い気分にもなってくる。

セカンドライフの本質

しかし、セカンドライフの最大の特徴はそこではない。
そのことを最も的確に言い表しているのが、CNETのこの記事だろう。

最大の特徴は「創造性」と「所有権」


 Secone Lifeにおける最大の特徴は住民(Second Lifeのユーザーは住民と呼ばれる)に与えられる「創造性」と「所有権」にあるだろう。Second Lifeには3Dオブジェクトを制作できるツールが用意されていて、住民はSecond Lifeで建物でも洋服でもゲームでも自分の欲しいものを作り出すことができる。さらに自分の創造したものの所有権は住民自身に与えられるため、さまざまな製品を作成し、販売することが可能となっている。この世界ではリンデンドルと呼ばれる通貨が用意され、米ドルへの換金も可能だ(ちなみに、現時点では1ドルは約270リンデンドルとなっている)。こうしてSecond Lifeでは経済活動も営まれているコミュニティーが運営されている。そのため、Second Lifeで起業する人もたくさんいる。

[年末特集:2006]始めてみよう!仮想世界「Second Life」--それって何?編 - CNET Japan


つまり、セカンドライフの本質は次の2点にまとめられるのである。

  • サイトのCreativeの部分を「簡単にクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。
  • クリエイトされたものを流通させるためにコミュニティ内に通貨システム(RMT - Real Money Trade - )を積極的に導入した。


なお、セカンドライフの通貨−リンデンドル−は、ドルと交換が可能なため、ひと儲けしようという参加者や企業が流入しているが、これはあくまでも結果論であろう。
基本的には2つめの特徴であるデジタルな財の自己増殖を促すための「仕掛け」が第一義だったと思う。



3Dのバーチャル空間はこれらを実現しやすくするためのインフラなのである。


Webサービスの自然な進化の流れの中で生まれたのが、セカンドライフ


では、この仕掛けは「新しい」のだろうか?


答えは、「No」だろう。


それは、上述の1つ目の特徴である

  • サイトのCreativeの部分を「簡単にクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。

の「クリエイト」されるものを、Webページに限定してみればわかる。


読み替えてみると、

  • ネット上のWebページの作成を「簡単にWebページをクリエイトするためのツール付きで」大幅にユーザーに開放することで、「自律的に」サイトが増殖するシステムを提供したこと。


となり、これは、「ブログ」や「wiki」などに代表されるCMS(Content Management System)のことに他ならない。



では、2つ目の特徴については、どうだろう?

たとえば、


「他者ブログを自分のブログに引用するのに通貨を必要とする」


となっていたとしよう。


すると、それは、


「他者の作ったTシャツを自分のアバターに着せるのに対価を払う」


のと、財の性質・組み合わせは違っても交換自体の本質に違いはないのであり、もし、この仕掛けがあったならば、ブログは「テキスト版セカンドライフ」とも言えるのである。*1

まとめ


まとめると、3Dの世界観は、初期ユーザーを「新しさ」で引き付けるための集客するための仕掛けであり、かつクリエイトしたものの置き場所にすぎない。
そして、その後、自律的に継続して(substainable)成長するための本質的な仕掛けとして、この「創造性」と「所有権」(そして付け加えるならば、それを促しやすくするための交換のシステム。)があるのである。*2


この違いを混同して


セカンドライフの3Dバーチャル空間は確かに凄い。でも、こういった全てバーチャルの気持ち悪さは、日本では流行らないだろう。」

などと認識をしていると、セカンドライフに対する理解をミスリードすることになり、気がつけばセカンドライフの独走になるかもしれないと少し思うのである。*3

*1:これを贈与経済的な方向から実現しているのが、はてなの「投げ銭」である。

*2:ちなみに、クリエイトの部分を独占し、通貨による交換のみを開放したのが、CyWorld。クリエイトを部分的に開放したが、交換を促す通貨がないのがmySpaceである。なお、SNSのSocialな仕掛け部分については、切り口が少し変わるため、今回は触れない。

*3:正直なところ、現状の仕組みのままでは日本では流行らないだろうと思う。ただ、Webサービスの良さは、簡単にバージョンアップ出来る事にある。ちょっとした簡単な工夫ひとつで爆発的にヒットできるポテンシャルをセカンドライフは秘めているのである。

youTubeとテレビ局は最高のパートナーになれるのに。

id:jkondo:20070307 を読んで、考えたこと。

確かにテレビ番組には、まだ巨大な可能性があると思う。

そのキーは、

  • 小口化する。
  • 選択権はユーザーに委ねる。


にあるだろう。

今日は、それについて主に民放側の視点で、ちょっと書いておきます。

iTunesMusicStoreがやったこと。

これから、テレビ局とネットの間で何が起こるか?といったことを考えたとき思い浮かぶのは、ナップスターからiTunesMusicStoreへの変遷のときの騒ぎである。


youTube は、これの動画版に過ぎない。*1

そう考えれば、次に起こりうることは、ある程度自明ですらあるように思える。


結論から言えば、

動画版のiTunesMusicStoreを広告モデルでつくれば良い。

ということである。


ナップスター当時、多くの利用者は別に『お金を払いたくないから、著作権を侵害した』のではない。


オンラインで正当な対価で簡単に欲しい楽曲のみをダウンロード出来るサービスがどこにも無かったから、ナップスターを使ったのである。


ならば、それが動画になっても同じことだろう。


多くのyouTube利用者は、別に『CMを見たくなくて、お金を払いたくなくて著作権を侵害している』のではないのである。


単純に、放送後に面白かったと言われるシーンを自分でもみてみたいが、そういうサービスが他に無いからyouTubeを使うのである。


ただ、それが、たまたまCMも無く、無料だっただけのことなのだ。

テレビの進む道。


ならば、広告ビジネスのテレビ局版のiTMSとは、次のようにイメージできる。


自社サイトに放送終了後の番組を自由に好きな部分を切り出して、ブックマーク、もしくは、ダウンロードできるサービスを始める。


ただし、その前方や中ほどには、番組提供のスポンサーのCMを自動でつけるようにする。


もし、CMがない動画をyouTubeでみつければ削除申請を出せば良い。そうすれば、投稿する側は、別に権利侵害が目的ではないのだから自然とルールに従いだすだろう。


これにより、CMは一度目のオンエア以降も、番組さえ良ければ、多くの露出ができることになる。しかもそれは正確に測定出来る形でできるのである。


これでCMの価格はあげられる。
そうすれば、料金は、タイムテーブル中心から、より番組自体の性質にシフトした形で決まることになるだろう。


それはテレビ局にとっても、いいことのように思えるのだが。

もうちょっと膨らますと


ここまできたら、膨らませるのは簡単だ。


ある番組をスポンサーしたら、永久に広告に入れてもらえるというのもおかしな話なので、放送後1ヶ月までのダウンロード or ブックマークから自社サーバーを利用した動画の閲覧は、完全に放送時のスポンサーが入る。1ヶ月から2ヶ月までは、50%の確率で入る。2ヶ月から3ヶ月までは、25%。3ヶ月目以降は、契約終了としよう。


しかし、コンテンツは生き続け、閲覧頻度は極めて落ちるだろうが、根強いコンテンツは、残り続ける。


そこで、広告を動画の性質に応じて、Google Adwordsと同じようにマッチングさせればよい。




そうすれば、増え続けるコンテンツを利用しながら、

  • 放送後は、ロングテールでいうヘッドの企業の広告露出。
  • 一定期間後は、マッチングがものをいう、テールの企業とつながる

といった連続的でハイブリッドな広告ビジネスが成り立つのである。

おまけ


「ダウンロード機能などつけなければ、youTubeに逃がすことなく、最初から全部自分のサイトのみで動画をみせられるじゃないか。」


という考えもあるかもしれない。


しかし、


mixi は、なぜ、ブログのRSSSNS内の日記に取り込めるようにしたか?」


といった点を考えれば、『すでに優勢なメディアがあるのに、自社単独での囲い込み型で参入する』のが決して良い戦略ではないことが分かるだろう。


あくまでも、見る人あっての、選ぶ人・作る人なのである。

*1:SNSの仕掛けがあるという大きな違いはあるが。

『グーグル・アマゾン化する社会』の賛同点と反論点。

『グーグル・アマゾン化する社会』(amazon:グーグル・アマゾン化する社会)を読みました。
これが、最近読んだ本の中では、かなりいい本でしたので、感想を。

多様化と一極集中と。

この本で提議されている問題点は、たぶん

  • 「世の中は、ますます多様化し、それが一極集中をもたらしている。」

の一点につきると思います。


これは、記録破りのメガヒット*1

の例を上げ、そして、そのほとんどが、Web以後の世界(90年代終わりに集中)でおこったことに注目した上で、多様化の中の一極集中に疑問を呈します。



同書では、この

なぜ、多様化の中で一極集中が起こるのか?

という問題意識について、特にGoogleAmazonを例にさらに掘り下げて解説し、その本質的な原因として、スケールフリーネットワークへと話を展開していきます。


すなわち、自己組織化の帰結として


「富める者はますます富み、貧乏人はますます貧乏に。」


の世界になってきており、その多様化が頼らざる終えないメディアとして、AmazonGoogleという富めるものが君臨している。


そして、これは、先日書いたNHKスペシャル「グーグル革命の衝撃」、要約 と感想 - 情報流の流れに身を任せ。の話にも繋がるのですが、ネットの民主主義まで話がいき、スモールワールドの狭い世界での集合知は、偏りやすい、といった点から警鐘を鳴らしています。


極端な意見が増幅しやすいWeb上での民主主義は、(うまくいけば素晴らしいが)、実態は難しい。


という点もあわせて、著者が強調している点です。

賛同点

一極集中と多様化が同時進行で起きるのは、相互作用の増したWebの世界では当然起きるであろう現象として、科学の世界からは以前から予測されていました。

CNETの森氏の記事、Web 2.0という時代の先にあるもの - CNET Japan

 しかし、実際にはインターネットという均質的なインフラが構築されても、依然として社会構造は均質的にはならず、むしろ情報分布の社会経済的な疎密という側面をより大きく強調することになった。


またこれまで視覚的にとらえられなかった社会の中での情報のマクロな分布は、むしろ均質性よりも大きく多様性を反映した広がり=ロングテールと、依然として一部の存在に情報や利用、需要が集中したり依存したりする様子を同時に描き出した。


 このことは、抽象的に世界を把握することに長けた経済学や複雑系科学の研究者は想定していたものの、GoogleAmazonなどのように、ロングテール現象を直観的に把握できるケースが生まれるまでは、あまり多くの人には知られていなかったことだ。


にあるとおり、世の中はフラット化するのではなく、フラット化したインフラをベースに自己組織化することで、ロングテールとヘッドが共存する「べき分布」の世界になるだろうというわけです。

なお、ロングテールの作者は、ロングテールは「べき分布」のテールの部分に注目した言葉であることを、「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く - CNET Japanで説明しています。


このような、Webを介して多様化と一極集中が同時進行で起こる現象を、まず、取材による事例であげ、それを、理論へとつなげている書籍はこれまであまりなかったので、そこがとても良かったです。


ロングテール」は確かに分かりやすく、そのことが、この言葉をバズワードとしていたのですが、実際には、

  • 長いテール
  • 巨大なヘッド

の両方の点を有していることにその本質があり、その点にスポットを当てたという点が、この本の素晴らしい点でもあります。



まとめると、

という言葉が混在し、特に「Web進化論」以後、いたずらに用語が混乱を増幅させている印象もありますが、僕なりにまとめると、これは、

  • Webの出現・拡大によって、世の中の情報に誰もがアクセスでき、発信できるように情報環境が「フラット化」した。
  • この環境の変化が、「一極集中」と「長いテール」が共存する分布(べき分布)をあちこちにもたらした。

ということになるのだと思います。


また、自己組織化を加速させる方法(上手にヘッドに近づける方法)として、ティム・オライリーWeb2.0について語っている下記の言葉も、重要です。*2

「多くのユーザーがいればいるほど使いやすくなるシステムをどうデザインするのか・この方がずっと深いコンセプトです。」


この点は、僕が、今更ながらの Web2.0。 簡単なまとめ。 - 情報流の流れに身を任せ。

にて指摘している点と重なっている部分が多く、読んでいて少し嬉しかった点です。


反論点

さて、賛同できない点もいくつかあります。


それは、

  • 多様化で儲けることができるのは、ヘッドの一部の企業だけだ。

という結論を出している点です。


ヘッドの一部に富が集中するのは、それはそうなのですが、テールはWeb前の世界に比べれば利益は遥かに出ているのです。


これを説明するためには、

という点を明らかにする必要があります。


この世界観は、相互作用がある時の分布の逆。
すなわち、独立に個々が動いたときの分布になります。


独立系の総和として得られる分布の特徴は、中心極限定理が示しています。
所謂受験勉強で「偏差値」として、散々お世話になって正規分布が代表です。


正規分布べき分布と比べ、ヘッドの集中が遥かに弱いです。
また、テールは非常に早く切れてしまいます。いわば、ショートテールです。


このことをロングテールではおなじみの「本」で例えると、次のようになります。

ロングテール以前の世界(正規分布:ショートテールの世界)
    • Top10が上位を競い合い、Top1000以下は、全く売れない世界。
ロングテールの世界(べき分布:強力なヘッドとロングテールの世界)
    • Top1が圧倒的に強く、2位、3位で急速に売り上げが減少する。しかし、Top1000以下でも、ある程度の売り上げはたち続け、Top10000移行でも売り上げがある世界

※1,000位や10,000位といった数字は感じを分かりやすくするためのダミーです。



僕は、このような世界はさほど悪いとは思っていません。

理由は、自然界の進化するときの多様性が、ロングテールになっているのではないか?という知見が出始めていることに由来します。

つまり、進化の形態としては、圧倒的に現在最良と思われる形態が大部分を占め、一方で、環境に激変に対して、大きく違う形態が少ないながらも多様に存在するという形を進化の法則は取っているのではないか?という考え方です。
*3


僕は、物理畑出身のため、自然界に似たものを正解とみなす傾向がありますので、もしかしたら間違いかもしれないのですが、まぁ、それは20年後ぐらいに正解はわかるってことで、今回は曖昧に終わらしたいと思います。

*1:p.28

*2:p.86より

*3:進化とべき法則の関連については、『カウフマン、生命と宇宙を語る―複雑系からみた進化の仕組み』amazon:カウフマン、生命と宇宙を語る―複雑系からみた進化の仕組みまで。

GoogleのPageRankアルゴリズムにみるイノベーションのパターン

前回の記事、NHKスペシャル「グーグル革命の衝撃」、要約と感想。 - 情報流の流れに身を任せ。で”PageRankの説明が端折りすぎ”、と書いたものの、どのような点を端折ったのかを書いてなかったこと。
あと、PageRankの思想って結構イノベーションに言える共通のパターンがあるような気がしていたので、ちょっとその視点からまとめてみることにします。

PageRankとは

はじめに

PageRankとは、ラリー・ペイジらがスタンフォード大にいたときに開発し、Google検索エンジン市場に華々しく登場するきっかけとなった基本的なアルゴリズムであり、Googleの検索結果の上下を決めている指標のことである。

計算方法の概念としてはかなり単純で、まさに発想の転換ともいうべきものなのだが、その他にもいくつかの工夫も凝らされている。*1

Game Start!、得をするのは誰だ。

PageRankの仕組みは論文でも公開され*2、日本語では、http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~baba/wais/pagerank.htmlなど、素晴らしく分かりやすく書かれた説明もあるので、本稿では例え話を使って、数式を出さずに説明したいと思う。

(逆に分かりにくくなってしまったら、すみません・・・。)


まず、5人(仮にA〜Eさんとする。)くらいで行う次のようなゲームを考えてみることにしよう。

モノポリーや人生ゲームの簡単なやつといったイメージで読んでもらえればと思う。


ゲーム開始時のルールは以下のふたつ

  1. 各自は、所持金として1,000円を持っているとする。
  2. 各々は仲の良い相手を何人か選んでおく。

だけである。


以下、あなたがAさんだとして話を進めると、ルール2は例えば、

  • 0人(誰も選ばない)
  • 1人(じゃあ、Cさんにする)
  • 2人(BさんとCさん)

(中略)

  • 4人全員(Bさん、Cさん、Dさん、Eさん)

といったバリエーションの中からどれかを選ぶことになる。


そして、ゲームスタートである。


第1ターン


まず、決めた人に対して、持ち金を配る。

  • あなた(A)が、もしCさんのみを選んでいたのなら、Cさんに1,000円を渡す。
  • もし、BさんとCさんを選んでいたのなら、公平にBさんとCさんに500円ずつを支払う。
  • もし、全員を選んでいたら、250円ずつBさんからEさんにそれぞれ支払う。

といった具合である。


これを全員で一気に行う。


あなたの手元からは1,000円が無くなり、他の人からあなたが選ばれていれば、あなたはその分配金を受け取ることになる。


もし、誰も選んでいなかった場合、その1,000円は全額銀行に没収され、次のターンの始まる前に参加者5人で分け合うことにしよう。*3


配分は、その時持っている各プレーヤーの所持金の比率によって分配される。


もし、2ターン目を始める際、Bさんが全プレーヤーの持っているお金の半分を集めていれば、Bさんに500円。残りの500円も持ち金比率に従って、分配される。




そして、2ターン目開始。


あなたが比較的多くの人から選ばれていて、合計2,000円を受け取っていたとしよう。
あとは、ルールは同じである。
あなたが、もし、BさんとCさんを選んでいたら、今度は1,000円ずつBさんとCさんに支払うことになる。


これをひたすら繰り返す。


すると、”あること”さえ起きなければ、金額はターンが進んでも変化しなくなり一定になる。


金額が変わらなくなったら、ゲームは終了である。


最後に、手持ちのお金を集計し、もっとも儲かった人が優勝、つまり、PageRank一等賞である。

裏ワザ!?

さて、これでゲームは終了なのだが、”あること”が起きると、金額はおかしなことになってしまう。
その”あること”を説明したいと思う。


それは、次のような方法で、ゲームを何回かやれば、すぐに誰かが思いつくだろう。


あなた(A)は、Bさんと結託することにする。
あなたは、常にBさんのみを指名し、Bさんもあなたのみを指名する。

そうすれば、AかBが他の人(C、D、E)から指名されていけば、お金は入ってくる。
そして、入ってきたお金はAとBの間を動くだけでCからEに渡ることは無いので、外部の指名したお金を集めつくすまでは、確実に増える一方となる。

ルール修正!

さて、問題発生である。これではゲームが成立しない。


そこで、ゲームのルールを一部変更することにする。

ターンを開始する際、まず、各自の所持金のうち15%は、自分以外の4人のプレーヤーに1/4ずつ分配することにする。

そして、残りの85%を当初のルールどおり、決めた相手に分配することにするのである。

これなら、AとBの間で回しているお金も、それ以外の3人に渡ってしまうため、再現なく増えることは無い。


必勝法はなくなり、ゲームは成立することになり、メデタシメデタシである。


話をWebに戻すと・・・。


さて、話をWebの戻そう。


本家では、「投票」という例えをとっているのだが、ここでは、ちょっと生々しくするために、「お金」を例えに使ってみました。


Webの用語に戻すと、

  • この「プレーヤー」というのが、「ホームページ」(特定のURL)。
  • 「お金をあげる相手」というのが、そのホームページに載っている「他のホームページへのリンク」

のことである。


このやり方の、いいところは、

  • 評価の高いページからリンクされた方が評価が上がる

ことにある。


再び、例え話に話を戻せば、もし、Aさんを指名した人の中に多額の金額を集める人がいれば、よりAさんに入る金額は多くなることになる。


誰からのリンクの張られていないページからリンクを張られるよりも、Yahoo!のトップページからリンクを張られた方が、高い評価になるわけである。

PageRankイノベーション


「うまいこと、考えたな・・・。」


というのが、Googleが出てきて、PageRankの概要を知った時の当時の僕の感想である。


ところが、である。


PageRankとは、それほど画期的な計算方法だったのだろうか?


こう振ったからにはその先は想像がつくと思うが、
実は、この

  • 高い評価を得たものから評価された場合、その評価を重く見る。
  • その評価の高低も他者の評価から決まる。

といった計算方法の収束点を探すというのは、行列演算でいうところの、固有値固有ベクトルの演算に過ぎない。
数学のグラフ理論では、「グラフの中心を探す時に固有ベクトル演算を使うと良い」というのは、一般的な話らしいのである。


また、社会ネットワーク学の分野では、真の有力者を探しだすために、
アンケートで、「あなたが重要な相談事をするとしたら誰ですか?」と聞き、それを投票とみなして、固有値を計算することで、有力者ランキングの作成をするといった方法がGoogle以前から知られていた。(中心性尺度のひとつ、ボナチッチ中心性という。)


要は、


「よく相談される人から相談されるということは、その人も相当なもんや。」


という具合である。




では、PageRankの凄さとは何だったのだろうか?


それは、
『Webのハイパーリンク構造をみて、それを一般的なネットワーク(グラフ構造)の一系統に過ぎないと理解し、その分野では一般的な技術を応用したこと』
である。


整理すると、

  1. 抽象化して、
  2. 類似のものを他分野みつけ、
  3. その分野での解決方法を適用する。

といえる。


これが、PageRankという演算方法の一つ目の凄さであり、『イノベーションの多くは、他分野ではごく一般的な技術が応用されることによって起こる』という、どこかで聞いたことのあるような話につながる。




さて、PageRankには、もうひとつの凄さがある。


実は、社会ネットワーク学の「有力者を見つけ出す」方法では、ゲームの例で上げたルール違反が発生した場合の修正ルールに、対応していない。


例えば、ネットワーク計算ソフトで、有力者をみつけるために固有値演算をしようとしたときに、上述のルール違反のような状況(グラフ理論では、「有向グラフで閉路がある。」といった表現が使われる。)が発生すると、「計算の妥当性は怪しいです。」というメッセージが出て、そのまま単純に固有値を計算してしまうのである。




これが、実は、2つ目の凄さである。


すなわち、
単純な応用をした際、概ね良いが部分的に問題があった場合には、
『ひと工夫してみる。』
ことで乗り越えている。


このゲーム内での金額の一部を分散させるやり方は、PageRankでは、ランダムサーファーモデルと呼ばれ、グーグル創業者であるLarry Pageらの独自モデルである。(ちなみに、PageRankとは、Larry PageのPageということらしい*4


イノベーションとは・・・。

最後にまとめると、GooglePageRankイノベーションとは、

  1. 他分野の技術を、Webに使えると発見し、試したこと。
  2. うまくいかなかった場合に、ひと工夫を自作でしたこと。

にあり、このパターンと言うのは、割と一般的に言われているイノベーション理論でもいえることなのでは、と思えるのである。*5

補足

分かりやすいので、GooglePageRankを投票に例え、僕も、配金ゲームとして例え話を作りましたが、「ランダムサーファーモデル」などの用語から分かるとおり、実際には、

  • WebのHTMLを内容を無視して、多くの人がどこかのページを基点として適当にページ内にあるリンクをクリックして次々とページを移動していった場合、長い時間で見て、どこのページを沢山通過したか?(交通量が多いか?)


というのをシミュレートしようとして出来たのが、PageRankです。


ランダムサーファーモデルというのは、閉路への対応という一面をもつ一方、仮説との整合性という意味では、

  • Webサーフィンをしている人は、今見ているページのリンクだけではなく、一定の確率でブックマークでどっか適当に飛んでいくこともあるだろう

という意味づけも含んでいます。


PageRankは、数理学では単純マルコフ過程という枠組みの一形態ですので、興味のある方は、そちらとの関連性も調べると、いろいろと面白いと思います。


今回は、計算式としてのPageRankイノベーションという話にしましたが、勿論、Google自体の強さはそれを広大なWebで本当にやってしまっていることにあります。*6そのほか、新規サーバーの追加、壊れたサーバーの削除でのメンテナンスの負荷の軽減。ルールを微調整すると、大量のサーバーへ伝搬させる仕組みなど、分散システムによるスケールに対する頑健性が一番の凄さでしょうね。

*1:実際には、当時の他の検索エンジンが行っていたアルゴリズム、例えば、キーワードとなる単語の数、html上での文字の大きさなどと組み合わせで評価しており、ハイブリッドモデルといえる。

*2:Page, L.,Brin,S.,Motwani ,R. and Winograd ,T.(1998),"The PageRank Citation Ranking: Bringing Order to the Web. ," Stanford University Technical Report. http://dbpubs.stanford.edu:8090/pub/showDoc.Fulltext?lang=en&doc=1999-66&format=pdf&compression=&name=1999-66.pdf

*3:計算式上では、「正規化」のプロセス

*4:wikipediaより

*5:amazon:VEとTRIZや、その他イノベーション論にて。流し読みをして忘れていくので、ソースが少なくてすみません。

*6:3年くらいまえで、80億ページを集めています。

NHKスペシャル「グーグル革命の衝撃」、要約 と感想

NHKスペシャル、「グーグル革命の衝撃」をみて、要約と感想を書いておこうと思います。

要約

番組自体は、あえて話を前後させたモザイク状の見せ方をしていたようなので、少し順番を直してまとめましたが、大体、下記のような内容でした。

【導入部:『検索』が人々のライフスタイルを変え始めてた。】

まず、番組は、ハロウィンで集まる若者を映し出すところから始まります。
そして、そこで着る衣装などを買うとき、アメリカでは8割の人が検索サービスを利用している、といったことを例にして、「検索」が、世界を大きく変えてきているという導入部から始まります。

次に、携帯の記事を作成することで、Google Adsenceで月収90万円近くの収入を挙げ、多くの決断に「検索」を利用し、Googleに中毒といってもいいほど依存している若者として、ジョン・ゲールさんという若者が紹介される。

SEM(企業 と Google その1)】

企業対Googleの話として、SEM(Search Engine Marketing)の話が紹介され、この話が比較的中心的になります。

Googleの上位に載らないと、企業のホームページはこの世に存在しないのと同じになる。といったSEM提供の会社が紹介され、大きな変化は、消費者側だけでなく、企業を大きく巻き込んでいる流れであることを、ここで示しています。

Adwords/Adsense(企業 と Google その2)】

SEMではなく、Google Adwords/Adsenceの話も紹介されます。

珍しい花の種を販売している中小企業の急成長を例に、ターゲット広告の効果として、

  • 広告をクリックした人の1/10が種を購入している。
  • 業績は3倍になった

といった話があり、検索キーワードの争奪戦が始まっていることが紹介されます。

Googleという会社とは】

人材の募集で、{問題}.com と看板を出し、{解}.com に人材募集を載せるという募集をするなど、トップクラスのコンピューターエンジニアが集まる会社として紹介されます。


その中では、おもちゃを置きながら働いている社員(あえてなのか分からないが、ちょっと浮いている感じを受ける。)や、限界まで才能を発揮したいと意欲に燃えるエンジニアが紹介されていき、やがて

Googleのミッション
『全世界の情報を整理・体系化し、誰もが使えるようにする』
エリック・シュミットCEOによって提示されます。


創業時の話からは、PageRankの紹介(ものすごく端折っているため、誤解を与えそうである。)、続いて、100を超えるルールが検索結果を決めており、そのルールは一切公開されていない点をあげ、Googleの問題点へと次第に話がシフトしていくきます。

Googleの問題点】

Googleの影響力が強くなりすぎたことに対する問題点として、

  • 検索のルールが公開されていない点。
  • 検索の結果は、Googleが自由に変更できる点として、
    • 政府の意図が介入していると疑問視されている1例として、中国の天安門事件が中国版Googleで表示されないといった有名な例。
    • ページに不正をしていたとGoogleが判断された場合、検索対象から外され業績が悪化するという所謂Google八分の例

このGoogle八分の例では、

Google言論の自由を制御していることが問題だ。」と、Google八分にあったキンダー・スタート社、ビクター・グッドマン社長の話が出てくる。



(余談)ちなみに、グーグルが中国進出する際には、

    • 中国の人々がGoogleを使えない状態

    • 中国の人々が検閲によって部分的に表示されないページがあってもGoogleを使える状態

との間で、どちらが中国に住む人達のためになるだろうと考えた末に、苦しい決断だったという話は、CNETあたりにあったと思う。

それを言わなかったのは、NHKの意図なのか、Googleの意図なのか、(僕の記憶違いなのか。)、 さて・・・・。



Googleの今後、社会とのかかわり】

最後に、巨大になりすぎた「検索」に対して、どのように個人は対応していくべきか、という話が出て番組は終了します。


まず、Googleがさらに個人の情報を集めようとしている具体例として、無料のWiFiを張り巡らせ、利用者の位置情報を取得することにより、より的確なターゲット広告をうつ事業への拡大、携帯への進出の話があり、

Google側の話として、

もっと情報を預けてくれれば、Googleはより有用な情報を提供できる、
(結構傲慢な感じです。英語が全部マスクされているけど、翻訳は大丈夫なんだろうか?とちょっと心配になりました。)

  • 副社長の話:

Googleは、より多くの情報をもち、よりターゲットを絞って情報を送ることが出来るようになる。
PCに関わらず、いつでも、どこからでも、Googleを利用できるようにする。
全ての答えをGoogleは持っている。

  • Googleの夢を自由に書き込んだホワイトボード

Google政府、Google通貨、株式市場を支配(コントロール


の3つの話がキーとなり、今後のGoogleの方向性が示される。

そして、それに対して、我々はどのように対応していくべきなのか(乗るか反るかですな。)、という課題をあげ、最後に、ゲールさんが再び登場し、
クレジット情報の管理をGoogleに預ける話が出てきている。
われわれは、どこまで情報を預けるのか、「記憶」まで預けようとしている、
検索とどのように向き合っていくべきなのか。。。

として、番組は終了します。

番組の感想

えーと、いきなりなんですが、とても楽しみにしていただけに、がっかりな内容でした。

とはいえ、わずか50分。それも、Googleを知らない人、普段検索をしない人も考慮して番組を作ることを考えれば、ある程度仕方ないか・・・、

自分で作ると想像しても、上記の制限を考えれば、確かに、他のまとめ方は無かったかも・・・、とは、見終って、落ち着いてから思ったことです。


残念だった点は、以下の三点

  • Googleが許可した初めての長期取材という割には、Googleの内情がほとんど出てこない。結局のところ、許可はもらったものの、ほとんど取材は出来なかったのではないか?という印象を受けた。
  • SEMの話は、Googleの影響力の拡大を示唆する上で、有効な見せ方だと思う。

だが、なにせ古い。
現在起こってきているソーシャル・ウェブ・サービスの大きな流れから考えれば、もう少し、Adwords,Adsenseの仕組みや、M&Aの展開などに時間を割いてもよかったのではないか、と思った。

  • 以上を踏まえての3点目なのですが、マクロ的な視点でもうすこし話を整理してほしかった。
    • Google Adsence-Adwordsのサービスとは、ターゲッティングの精度を上げたことで、広告市場のパイ自体が増加し、それを現在埋めていっている段階にあり、他社もそれを狙っているという、広告ビジネス全体から見たときの大きな流れ。

(特に、Google/Yahoo!/Microsoft三国志の様相を呈してきている検索市場争いは、とても面白い。)

    • キーワードの販売システムを始め、全て自動化するというGoogleの企業方針。このことが、収穫逓増型の強固な利益獲得手段となっている一方、ひとりひとりに細かい対応をしないという、番組の中ではGoogleの傲慢さともみえる背景がある。
    • そして、広告ビジネスによって安定した収入を得てから、将来の脅威となりうる企業を次々と買収していったことといった、ビジネス面での金融と企業戦略の使い方が、技術信仰の会社という面を考えると、ずばぬけてうまくいっている。

M&Aは、企業の多角化という点ではしばしばリスキーだが、ミッションを元にぶれが少なく(社歴の短さを考えればあたりまえともいえるが。)、
技術者の楽園であると同時に、ビジネスについてはプロに委ねているという点があるため、単なる無邪気な科学者の集団ではないという点もGoogleを特徴付ける重要な要素だと思う。

最後に

この番組を観て、「そっかGoogleすげ〜。こえ〜。」というのは、非常に間違っているだろうな、というのが番組後、すぐに思いついたことです。


ソニーがいい例ですが、誰もが「いい」と言い始めたときこそ、足元をすくう要素を見ておいたほうがいいと思うというのが、僕の考えです。


これは、その企業が図に乗ったためというよりも、むしろ、「うまくいきすぎた」企業に対して周りの認識が変わることで、環境が急激にその企業専用に共構築を始め、より居心地のいい環境となる。
しかし、その結果として大きな別の流れが起こったときに乗り遅れやすくなる、といったことが起こりうるのではないか?と僕には思えるのです。



現在のGoogleで考えると、いくつか足元をすくわれそうなことが浮かび上がります。


ひとつは、ソーシャル系のサービスに思いのほか乗り遅れていること。Bloggerがさえず、SNSも比較的早い段階でorkutが立ち上がった割には、その後しぼんでいる。
このことは、全てを自動化する方向にあるため、一般人への対応は落とさざる終えないことがネックとなっている可能性がある。


Googleの創業のきっかけになったPageRankは、それまで、HTML解析、自然言語解析によって、行ってきたロボットによる検索ランキングを、ハイパーリンクの構造を最重視することによって生み出された。

ハイパーリンクは、そのページの作成者がリンク先を「良い」と思って張るものであり、いわば、それを解析して、いいページを探すということは、

「良いページは、誰か(この場合、他のWebページ作成者)の意見(リンク)を参考にすればよい」

ということに他ならない。


はてなブックマークなどのソーシャルブックマークは、それをさらに広げ、

「良いページは、誰か(この場合、他のブックマーカー)の意見(ブックマーク)を参考にすればよい」

という点から、ページの評価しており、評価者のカバレッジが広いと同時に、Googleよりも、受容的な情報収集ニーズへの対応力も高い。


このソーシャル系サービスへの進出の遅さと、受容的な情報ニーズへの対応の不足は、今後、Googleの大きなネックとなる可能性を含んでいる。


ふたつめは、ローカライゼーションの遅さが少しずつ出てきている。
システムのコアを全世界で共通化しているせいか、USでのサービスリリースから、他国へのリリース時間が長くなってきているように思える。
日本では、Yahoo!が激しくローカライゼーションしており、対照的で面白いが、ある程度きままなローカライゼーションをシステムに入れ込めるかどうか、も判断基準となりえそうである。


Webはリアルを巻き込みながら、ネットワークが最適に自己組織化し、必要に応じて階層化する集合知へと発展し続けているというのが僕の認識である。

その大きな潮流の中で、検索やGoogleを捕らえて行くいく必要があるだろうと思いました。